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ε-N(ε-δ)論法について

こんにちは

今回は大学の数学の中でも特に数学科の学生さんが苦戦するε-N(ε-δ)論法について紹介していきます!

このε-N論法は数学科の1年生が微分積分学の授業で最初に学ぶものですが、高校までの数学と違い定義自体が一気に難しくなるので大学数学がいきなり分からなくなる人が多くなり、数学科の学生なのに数学が嫌いになったという学生さんは本当に多いです。
高校数学と大学数学のギャップはここにあると言っても過言ではなく、このギャップのせいで単位を落としたり留年したり、最悪退学してしまう学生も何人もいました。

さて、微分積分学に関しては具体的な計算は高校までにやったものも扱いますが、特に数列や関数の極限の理論の部分は本当に難しいです。
限りなく近づけるなどという曖昧な部分を数式として表現するので厳密な議論になります。
この厳密性が大学数学の根幹となるものですが、逆にこの厳密な議論のせいで先ほど述べたような数学嫌いの学生が量産されていくのも事実です。

逆に言うと、このε-N(ε-δ)論法を乗り越えれば数学科の最初の関門を突破したとも言えます。
それくらい難しいです。
まあその先には位相空間論や実解析学などとんでもなく難しい科目が待ち受けているわけですが。

ちなみに余談ですが解析系のゼミに進むとさっき出てきた位相空間論はほぼ使うことになるので、3年生に上がった時点で2年生で習った位相空間論が苦手な方だなと思った学生さんは代数系に進んだほうがいいでしょう。

となると、ほとんどが代数系に進んだ方がいいっていう結論になりそうなのでそれも困りものですね。

ただし代数系もイデアルや準同型など難しい概念が山ほどありますが
扱うモノが有理数や実数などそんなに難しくないのでまだマシだと思います。
でも、位相空間論は何を言ってるのか本当にわからなかったですから個人的に地獄でした。

では、早速ε-N論法とは何か説明していきます。
ε-N論法は数列の収束の定義で使われています。

☆数列{a_n}がαに収束するとは
任意の正の数εに対し、ある自然数Nが存在し
N以上の任意のnに対して|a_n-α|<ε
となるとき数列{a_n}はαに収束するという。

いきなり記号と数式だらけ・・・というよりほぼ記号と数式しかないので頭が痛くなりそうですね。

この式の意味を説明すると
どんな正の数ε(小さいと仮定します)を取っても、そのεに対して自然数N(大きいと仮定します)が存在して
N以上のすべてのnに対し|a_n-α|<εが成り立つことです。

それでは例を見ていきましょう!

例1 lim(n→∞) 1/n=0をε-N論法で証明せよ。
このような問題を示す方法を説明します。

示すこと

任意の正のεに対し、自然数Nが存在してnがN以上なら|1/n-0|<ε。
つまり|1/n|<εを示せばよいことが分かります。
|1/n|<εで、nは十分大きいので1/n<εとなります。
よってεn>1となりn>1/εが成立します。
よってNとしてはN=[1/ε]+1を取ればよいことがわかります。

以上より、lim(n→∞)1/n=0が成り立ちます。

この説明でわかる方はおそらくほとんどいないと思います。いたら天才でしょう。
まず文字では何を言っているかわからないので具体的な数で考えてみましょう。

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(具体的な数での説明)

まず任意にεを取るのですが、εは小さい数を想定していますので例えば1/100としてみましょう。
そのεに対しNが存在し、とあるのですがNはいくつになるのでしょうか?
それを求めるために極限の式を見てみます。
すると|1/n|<εとあるのでεに1/100を代入して、|1/n|<1/100。
これを解くとn>100になります。

Nとしては、n>100ならなんでもよいことになるのでN=101としましょう。
ε=1/100のとき、このNに対し|1/n|<εが成り立っています。

次にもっと小さな数で考えてみましょう。次はεを1/10000とした場合です。
このときは|1/n|<1/10000となるのでn>10000となります。
つまりNとしては10001を取ればよいことがわかります。

今度は一般化してみましょう。
つまり任意にεを取ったときにNがいくつになるか?ということです。
今度は、|1/n|<εをnについて解くことになるのでn>1/εとなります。

先ほどと同じように考えると1足せばよいことがわかりますが、一般的に1/εは整数とは限らないので、N=[1/ε]+1とするとよいことが分かりました。
今、εは任意ですからεが何であってもNを先ほどの数に取ればよいので(Nはεで表された式なのでそういうNが必ず取れる)
極限値は0ということになります。

(なぜそう考えるかの説明)

極限の式の意味はどんなεをとってもある番号より大きい番号ならば、数列のその番号での値と極限値の差の絶対値が最初に取ったεより小さくなるという意味です。
ということはこのεを限りなく0に近づけたときに対応する番号があれば極限が定まったということになりますね。これを数式で表したのがε-N論法ということになります。

例2 a_n=(n+1)/(2n+1)のとき、lim(n→∞)a_n=1/2となる。これをε-N論法で証明せよ。

示すこと

任意のεに対し、ある自然数Nが存在しN以上の任意の自然数nに対し
|a_n-1/2|<εが成立します。

証明

Step 1 |(n+1)/(2n+1)-1/2|<εとなるnをεで表します。

先ほどの不等式を解くと(左辺を通分してnについて解く)

n>(1-2ε)/4ε

Step 2 Nを求める

先ほどの計算よりN=[(1-2ε)/4ε]+1を取ればよいことがわかります。
したがって、lim(n→∞)(n+1)/(2n+1)=1/2となります(証明終)。

いかがだったでしょうか?
数学科の1年生で最初に学ぶε-N論法について少しはイメージができたでしょうか?

数式ばかりで全くわからないときは式の意味を考えて具体的な数で計算してみるのが有効です。
そうすることによって方針が見えてきます!
そのあとは数を文字にして同様に考えれば証明することができるはずです。

ただし、”任意”とか”ある”とかが出てくるので命題論理についても少し勉強しなければなりません。
今回はかなり詳しく書きましたが、初学者には少しわかりづらいかもしれません。
数学の理解への道は一歩一歩、階段を上るように理解していくことです。
めんどくさいからと、もし飛ばして理解してしまうと踏み外して落ちてしまいますよ。

今回は以上です。ありがとうございました!

参考文献
[1] 数列の極限・関数の極限について(PDF) 東京大学

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